やがて人々から「マッドマン」と呼ばれるようになる。
その謎を解くひとつの鍵は彼が25歳の時にあった…
16歳でニュージャージーのメンローパーク研究所へ巣立ったルドヴィックが、テスラ電灯社を経て故郷のシカゴに戻ったのは彼が25歳の時だった。
両親の不可解な死により生まれながらに孤児となった彼を育て、愛してくれたイダ叔母さんの家は昔のままだった。しかしあの優しかったイダはもういない。亡くなってもう半年、彼は最後を看取れなかったことを悔やんだ。
サウスサイドの裏通りに面した懐かしい家に入ると、住人のいないカビ臭い部屋には、埃を被った家具が無造作に転がっていた。ただ、ひとつだけ薄汚れた布が掛けられた椅子に気がついた彼はそっと布を手繰り寄せてみた。それは伯母さんが好きだったハイバックの椅子だった。
懐かしい!…伯母さんはよくここに座って編み物をしたり、本を読んでくれた…ふと、生気のない空間に人肌の温もりが帰ってきたような気がした。
ルドヴィックは静かにその椅子に座ってみた。そっと目を閉じると子供の頃の部屋の記憶が甦る。遠くに聞こえる工場の喧騒、伯母さんが入れた蜂蜜入りの紅茶の匂い…。
おやっ?彼は尻のあたりに何かが当たる違和感を感じた。椅子のクッションの隙間に何かが見えた。取り出してみると、それは薄い布で覆われた封筒だった。
封筒には「イダヘ」と書かれていた。もうかなり古い手紙のようだったが、その文字は弱々しく、しかも走り書きしたように乱れていた。何か只ならぬものを感じた彼はちょっと緊張した面持ちで中の手紙を取り出した。
それはルドヴィックの母マリアからイダヘの手紙だった。声も知らない、写真も見たことがない、母が書いた字がそこにあった。
手紙を読む彼の手は震えていた。手紙には母だけが知っているルドヴィック出生の秘密と父モイーズの死の謎が明かされていたのだ。恐らく母は死期が近いことを感じて書いた手紙。彼は体の中が熱くなるのを感じた。不可解な死に対する心の中の縺れが一瞬で解かれると同時に、それは怒りとなり彼の全身の血管を熱く駆け巡り、張り裂けそうになるような痛みを感じ、只々彼は立ち尽くした。
犯人は「狼」!
それは彼の目にマッドマンが宿った瞬間だった。
4年後に開催されるシカゴ万国博覧会に向けて街は大きく変わる。やがて伯母さんの家の周辺も狼たちによって一変されようとしていた…
- 2016.4.15
- しばらく準備中でしたが、E ブックなどのリリースを前に、
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